少し古い話になりますが、以前「日本」で皆既日食が観測できた2009年に沖縄で
「皆既にあと一歩」の部分日食を見に行ったときの話をします。
2009年7月、日本国内で皆既日食が観測可能になるということで各所で話題となりました。
しかし、問題はその観測可能なエリアで、以下のサイトに記されている通り、鹿児島と沖縄の
間の海を北西から南東にかけて通過するエリアという、陸地がほとんどない場所ゆえに
実際の観測は困難を極める状態でした。
国立天文台2009年7月日食情報 : http://www.nao.ac.jp/phenomena/20090722/
しかも、完全に海上のみであるとか、若しくは南鳥島や硫黄島、領土係争地などの
一般人の立ち入れない島や、あるいはベヨネーズ列岩など物理的に上陸がほぼ不可能な
離島のみというわけでもなく、一応は一般人も立ち入り可能な離島だけは含むという
心象的に何とも言えない観測域となっていました。
「一応は一般人も立ち入り可能な離島」ということで、観測ツアーも組まれていましたが、
観光客の訪問も通例ほとんどない場所ゆえに宿泊施設が皆無なうえに、多数の人の訪問に
より水や食料の確保すら難しくなる恐れがあるということで諸経費が20万円を超える上に
屋外でのキャンプ必須となり、観光施設の整った外国に行くよりもよほどハードルが高い状態でした。
(もう少し北であれば、屋久島・種子島という、観光インフラがある程度そろった島も入るのですが)
そんなわけで早々に「皆既」日食を見るのはあきらめて、部分日食でもいいので
適当に観光がてら出かけようということで、当初はまだ足を運んだことのない
八丈島に行く予定をたてました。
しかし、ぎりぎりまで天気の動向を見ていたところ、日食当日は八丈島を含む
日本上空の大半が雲で塗り固められ、ある程度日食が観測可能でかつ晴れるのが
あと一歩で皆既に届かない沖縄付近のみになる可能性が濃厚になりました。
そんなわけで天気の好転もなさそうなのと、沖縄もこれまで足を運んだ
ことがなかったこともあって沖縄は名護市に予定を変えることにしました。
ちなみに、名護市に場所を決めたのは「沖縄本島では北の方が日食で欠ける割合が大きい」
「ついでに有名な水族館も見物できる」ぐらいの動機で、あとはバスターミナルの近くで
道路を挟んで観測に適した海岸の公園があるホテルを選ぶこととしました。
そんなわけで飛行機とバスを乗り継いでついたのがこの写真の地となります。
まだシーズンには早いので、沖縄といえども海岸はそれほど人はいないだろうと
思っていましたが、殆ど自分一人というのはさすがに予想外でした。
拍子抜けはしつつも、空いている分には好都合なので機材の準備を進めます。
ここで日食の撮影に当たり簡単に機材の説明をします。
まずカメラ本体についてはデジタル一眼レフを使用しています。
日食の撮影については機種はさておき、少なくとも外部フィルター(後述)が
取り付け可能であることが必須、かつマニュアルフォーカス・マニュアル露光が可能な
カメラが望ましいでしょう。多くの場合一眼レフやミラーレスカメラなどが使いやすいでしょう。
次にレンズ交換式カメラではレンズが必要になりますが、ここで太陽や月等を撮影する事を
考えているのであれば「ミラーレンズ」をおすすめします。
太陽や月の撮影には300mm以上の望遠がほしくなりますが、ミラーレンズはその名前の通り
反射光学系(いわゆる反射式望遠鏡と同類)の採用により、超望遠レンズとしては
小型軽量で持ち運びが容易で、そして何より一般的な屈折式の望遠レンズと比べて
ずっと安価です。
500mmクラスの一眼レフ用レンズの場合、一般的なレンズは価格が6,7桁に
なりますがミラーレンズでは新品でも数万円程度、中古であれば1万円程度でも入手可能です。
ただしマイナーゆえに流通数は少ないのでなかなか見かけません。
なお、当然ながらいいことばかりではなく次のようなデメリットも存在します。
– (1つの例外を除いて)マニュアルフォーカス専用
– 基本絞りが固定で変更不可能
– 「暗い」レンズであるのでシャッタースピードの低下ないしは高感度を要する
ただし、いずれも今回のような日食の撮影では問題とはなりませんし、最近のカメラは
高感度撮影が可能なので天体以外にも使えると思います。
次に、日食の撮影に欠かせないのがNDフィルターと呼ばれる減光用のフィルターです。
端的にいうとカメラ用のサングラスともいうべき黒いフィルターで、ND+数字で減光の
度合いを表し、数字が大きいほど濃いフィルターとなります。通常の撮影には
ND1~8程度のフィルターを使いますが、日食の撮影に関してはND10000ないしは
その代用としてND400を2枚重ねて使用します。なお、あくまで写真撮影用の
フィルターであり、裸眼での観測用の器材ではないので、フィルター付きのカメラの
光学ファインダーで太陽を直接見ると目を傷める恐れがあるので注意してください。
最後に、光学ファインダー付きのカメラの場合、うっかり太陽を覗いてしまうと
失明の危険があるため、必ず内蔵のシャッターないしは外付けのファインダーカバーを
つけて光学ファインダーを封印しておきます。特に家族などと一緒に撮影する場合、
詳しくない人がファインダーを覗いてしまう危険性が高いので注意が必要です。
後は三脚にカメラ一式をセットして、ライブビューなどを利用してピントを
合わせて、適当にマニュアルモードでトライ&エラーで露出を合わせれば
撮影できると思います。なお、日食の進展や薄雲などが出るとかなり露出が
変わるので時々チェックした方がよいでしょう。
初めのうちは雲が多めで気がかりでしたが、しばらくすると天気も回復し
日食の観測に差支えない環境となりました。
事前に調べた範囲では、皆既までいかないと特に暗くなったりはしないとの
事でしたが、今回の日食のように95%位までいくと部分日食でも太陽が雲に
隠れたかと錯覚する程度には多少薄暗く、若干体感気温も下がる程度には
影響が出るようです。
あと一歩で皆既まで届かないのは残念ですが、悪条件の重なった中では
それなりに観測できたのでいずれ機会があれば皆既日食の撮影にも
挑戦してみたいところです。
ちなみに、離島でのキャンプツアーで皆既日食の観測を試みた人たちですが、
ピンポイントで豪雨に見舞われて何の成果もあげられなかったとニュースで知って
同情を禁じえませんでした。往々にして天体観測は天気に振り回されるものですが、
今回のように「泣きっ面を雀蜂に2回刺される」レベルの不運はそうそうないでしょう。
日食の観測は無事に終わりましたが、まだ昼ごろなので
せっかく沖縄に行ったついでに大水槽のジンベイザメで有名な水族館に
足を運びました。手前の人物と比べると巨大さがわかると思います。
翌日は帰途につきましたが、飛行機の時間を割引の効く時間にしたために
若干半端に時間が余ったので、空港からモノレールに乗って国際条約で保護下にある
湿地帯を見に行きました。想像以上に市街地の真ん中なので意外な感じがしました。
なお、那覇近辺の観光地としては本殿が復元された首里城が有名ですが、
今回は時間が取れなかったので別の機会にしたいと思います。
※この写真と下の航空機の写真はいずれも日食撮影に使用した
ミラーレンズを使用しています。
空港に戻った後もちょっと時間が余っていたので、空港のデッキで
適当に航空機の写真を撮って時間をつぶしました。那覇空港は共用空港と
いうことで、国内各地を結ぶジェット旅客機や、近隣の離島路線の小型
双発プロペラ機と並んで哨戒機などが並ぶ光景が見られます。
多様な組織所属の、さまざまな機体が滑走路1本を共用しているので
見る分にはともかく、運用はなかなかに大変そうです。
そうこうしているうちに時間となったので羽田行の便に乗り込み、2泊3日の
沖縄旅行の幕を閉じました。
おまけ
今回は日食観測記ということでしたが、さすがに部分日食だけでは画が地味なので、
2012年に国内で観測された金環日食の写真もはっておきます。このときは離島限定
等ということはなく、本州を含む広い範囲で観測可能であり、実際家の近所も最適な
観測地となっていたのですが、やはり天気の都合で少し遠出していわき市付近で
観測しています。
この画像は2台のカメラのうち、広角で向きを固定してインターバル撮影した画像を1枚に
合成したものです。ちなみに色合いが異なるのは多少の薄雲の影響で時折露出を
変えていたためであり、実際の太陽の色が変わったわけではありません。
おまけ2
さらにもう一つ太陽の写真で、こちらは去年の秋ごろ、太陽活動が活発で巨大な黒点が
観測された時の写真です。先の日食のときには見られなかった黒点が写っているのが
わかります。